寝ても覚めても

あなたのことばかり。

雪解けを、待っている。

 

夢ならばどれほどよかったでしょう。

 

あまりにも有名なその一節が、幾度となく頭に浮かんでは消える。

 

 

目に見えないウイルスとの闘い。

あらゆるエンターテインメントに広がる自粛の動き。

 

 

Snow Manアジアツアーの中止。

 

 

なぜよりによって今なのか。

何年も何年も経験を積んで力をためて、ようやく果たしたデビュー。

それに伴い掴んだ、アジアツアーという大舞台。

これから9人が走り出していこうというときに。

なぜよりによって今なのか。

 

答えのない問いをいくら発しても、空を切るばかり。

 

これは誰のせいでもない。誰のせいでもないから辛いんだ。

運が悪かったと、そう片付けるしかないから辛いんだ。

 

 

 

* 

 

 

 

思い返せば、怒涛の1ヶ月だった。

 

開催発表から半年経ち、ようやく動き出したビッグプロジェクト。

 

ハイタッチ会の延期を反映したスケジュールに、スタッフさんはじめ多くの方たちの汗が見えて、ありがたかった。YouTubeで日程の決定を嬉々として報告するメンバーの姿は本当にいきいきしていて、見ているこちらまで笑みを抑えられなかった。

 

たった4日間の応募期間。慣れないアリーナ公演の応募(しかもひとりあたりの応募回数に制限がない)(一般的にはこれが普通なのだ、嵐が異常なだけで)に、私と同じくジャニーズは嵐しか応募したことのない友人と2人して戸惑いながら、なんとか日程を決めた。

初日以外の東京公演全てを、重複を避けてひとり4公演ずつ、全て第一希望で応募する。

祈るような気持ちだった。これを逃せば、次いつ会えるかわからないし、何と言ってもデビュー後初のコンサートだ。絶対に行きたい。

 

 

当落発表までの1週間は、生きた心地がしなかった。

当落は何度も経験があったが、ここまで切実に当選したいと願ったのは初めてに等しい。ずっと追ってきた嵐は当選確率が異常に低いので、年一回の運試し的な感覚で応募してきたが、今回は訳が違う。「はじめて」を観られるなんて、どう考えても別格だ。

 

 

 

当落発表の日。

何時とも知れない発表に、ずっとそわそわしていた。15時ではないかという予測が一部で出ていたので、なんとなくそのつもりで15時を迎えた。

ログインしようかなと考えているところに、友人からLINEが飛んできた。

 

「手が、手が震えて」

 

当選していた。

 

嘘だ、と思った。

 

送られてきたスクショには、確かに「当選」とあった。

 

へ、あ、あ、え?嘘だ、や、え、マジで?

 

とりとめのない呟きをもらしながら震える手でログインした。

 

 

当選していた。

 

 

今まで考えたこともなかった複数当選。まさか自分の身に起こるなんて思わなかった。嬉しさとパニックで、かぁっと胸が熱くなる。

 

 

私が、この私が、Snow Manに会える。しかも2回も。

 

当選日程に開きがあって3泊4日しないといけなくなったのは誤算っちゃ誤算だったが、そんなことはどうでもよかった。金はないが時間ならある、聖地巡りしよう。行きたいところならいくらでもある。

 

その後、知り合いのつてを頼り、なんとかホテルと新幹線を確保した。

当時、コロナウイルスの影響を全く心配しなかったわけではないが、まぁ大丈夫だろうと思っていた。当選したことを周囲の人に報告するたびに開催を危ぶむ声が出たし、私自身も怖かったけど、ここまできたら信じるしかなかった。だって本人たちはやる気だから。

 

 

うちわのデザインを考えて、作って、聖地へのアクセスを調べて。

今思えばあの頃が一番楽しかった。気づけば3月になっていた。

 

 

 

本格的に不穏な空気がたちこめてきたのは3月の初めごろ。

ジャニーズでも、演劇やコンサートの延期・中止が相次いで、もしかしたら、と不安になってきた。政府の見解が肝となると分かれば、政府や専門家会議の会見をリアタイした。他ジャンルのイベントの開催状況も調べるようになった。感染者が増えたと聞いて落ち込み、大物アーティストがライブを決行したと聞いて救われた。

 

日を追うごとに、情報に敏感になっていく自分がいた。

 

 

先が見通せない不安感は、さらなる不安を煽る。

 

検索したところでどうしようもないのに、Twitterで「スノ 延期」と何度も検索した。

私と同じように情報を求める人がたくさんいて、皆不安感を口にしていた。

延期してほしいという人もいれば、決行してほしいという人もいて、一部では軋轢も生じていた。

皆不安で、焦って、でも9人に元気で活動してほしいという点では一致していた。

 

 

初日の1週間前から、毎時間0分にジャニーズネットにアクセスする生活が始まった。

 

確かな理由はない。ただ、きりのいい時間に何か発表されるのではないかとの憶測だけで、そうしていた。いよいよ直前となり、ホテルのキャンセル料も絡んでくる。焦りが募った。

コンサート1週間前なんて、普段ならどうしようもないくらい浮き足立って、早すぎる荷造りを始める頃なのに、今は期待感の欠片もない。

 

強行突破してほしいという思いと、延期してほしいという思いが胸でせめぎ合う。

もちろん9人に会いたい。ただ、今コンサートを決行すれば何と言われるか。下手したら一生の汚点になるかもしれない。そこまでして決行してほしいと言うのか。でも会いたい。リハもしてるんでしょ?会いたいよ。環境さえ整えば会えるんでしょ...?

 

欲望に忠実なわがままな私と、安全性や世間体を気にする冷静な私。

対照的だが、どちらも確かに、本当の自分だった。

 

 

もうここまできたら、どんな結果になろうと驚かないだろうと思った。

 

延期も中止も決行も、どのパターンも何百回と考えた。結局、行き着く先はこの3つしかないんだ、あとは発表を待つだけ。私には、待つことしかできない。

 

 

初日の3日前。まだ何も情報が出ない。

デジチケが配信されると思われていた正午にも、何も起こらなかった。

頼むから、やるかやらないかだけ教えてくれ。苛立ちすら感じた。

 

20時すぎ。ちゃんと20:00にジャニーズネットを確認したかは覚えていない。

ただ、20分ほど経ったところで何となくTwitterを開いたら、TLに泣いてる人が何人かいて、何があったかうっすらと悟った。

 

 

自らの目で確認した結果は、「中止」。

振替公演は未定。

 

 

「中止」

最初から想定していた結果だった。

想定の範囲内じゃないか。何を驚く必要がある。発表前の自分ならこう言ったかもしれない。

だけど、いざ眼前に現実を突きつけられると、視界が歪んだし心臓がバクバクしたし脚が震えた。

 

 

「中止」が現実になった。

その一方で、闘いが終わった、という安堵感もあった。先が見通せなくて、虚ろな目で情報を求め続ける日々に、ようやく決着がついた。

 

 

発表を受けてかえって冷静になった私は、一緒に行くはずだった友人とLINEした。

友人は悲しみのあまり泣いてる、と言った。私は涙も出なかった。感情に素直に泣ける友人がうらやましかった。

 

 

その日は寝つきが悪かった。悔しさと虚無感が胸の中で大暴れしていたのが原因。

感情を爆発させる方法が分からなくて、暴れ狂う感情から逃げるように目を閉じた。

 

 

目覚めると朝になっていた。太陽の光が眩しい。そして思い出す。

 

「今日から私が生きるのは、Snow Manアジアツアーが消えた世界だ」

 

いつも以上に頭が重い。慣れない頭痛に驚く。この痛みは、昨日暴れていた感情の死骸だろうか。

 

 

この日は、あらゆるものをキャンセルした。

朝、家に届いたばかりの旅券と新幹線のチケット。

新幹線のチケットは、駅に持って行ってみどりの窓口で取り消し。もらった取消証明と旅券を同封して、旅行会社に返送。初めて知ることばかりで勉強になった。

けど、このチケットで幸せを掴んでいたのかと思うとやるせない気持ちでいっぱいになった。

 

 

この間、苦しいし悔しいし辛かったことに違いはないが、救いがなかったわけでは決してない。

 

3日に一度のブログ更新は一筋の光だった。リハしてるよ!と報告したメンバーも、しなかったメンバーもいたが、どちらも形を変えた愛だったと思う。

 

水曜17時の動画更新もすっかり定着して、週に一度の楽しみになった。

 

中止が決まったあと、翌日にはメンバー全員のコメントに、通常通りさく日の更新。FC会員向けの動画が上がったし、当選した人にはそのために撮影された動画が送られてきた。

 

さらには、2時間にわたる生配信。本当なら公演をしているはずの時間の配信。Snow Worldの振付解禁なんて、予想もしていなくて飛び上がって喜んだ。

 

 

チームSnow Manの計らいのひとつひとつが、あたたかくてうれしい。

 

一番悔しい思いをしているのはメンバーのはずなのに、私はメンバーに笑顔にしてもらってばっかりだ。

 

 

 

 

 中止が決まったあの時、辛いはずなのに流れなかった涙は、きっと9人に会えたときの嬉し涙のためにとってあるんだと思う。

 

 

今日も私は9人に救われて生きる。

 

絶対に会いに行く。会いに行くその日まで。

 

 

雪解けを、待っている。